そしがやのリタイア日記

リタイアした公務員の日々の生活を書いていきます。学生生活、投資、などなどです。

サラゴサ手稿

 

大分前になりますが、この長編の抄訳が出版されたときに読みました。

国書刊行会から1980年に出た時ですから、そしがやがまだ20代のころです。

夢中になってしまい、完訳を待っていたのですが、結局、翻訳家も他界してしまい、その夢はかなわないままになったと思っていました。

 

ですが、今回、岩波書店から上中下の3冊からなる完訳版が出版されました。
読んでみたら、20代のころのワクワクしながら読んだ記憶がよみがえって来ました。

こんなに興奮しながら、小説を楽しんだのは、久しぶりです。

長く待っていてよかったです。

 

      

 

この物語の特徴は、千夜一夜物語を思わせる入れ子構造です。

ある登場人物が物語を語り始めるとその出会った人物がまた別の物語を語り、次の人物が別の物語を…というスタイルです。

下巻の巻末にその通覧図が載っていますが、第5層まであります。

読んでいるときは、混乱しやすいので、各巻の最初に載っている登場人物一覧とこの通覧図を参照しながら読みすすめるといいでしょう。

 

主人公は、ワロン人衛兵隊長拝命のためにマドリッドに向かうアルフォンソです。

その彼がシエラ・モレナ山中をさまよう中で、残した手記が出会う謎めいた人々の運命の物語を語ります。

 

最初に登場するのは、シエラザード姉妹を思わせるイスラムの美女姉妹ですが、ほかにも悪魔憑き、死霊、盗賊(暗殺者)、海賊、カバラ学者(魔法使い)にジプシー等々が現れます。

それぞれが自分の物語を語る時には、主役になり、他の者の物語に登場するときは脇役にもなります。

物語の楽しみを教えてくれる作品です。

 

そんな一つ一つのエピソードが面白いのですが、中でも最初の方に登場する盗賊ゾトの物語が一番、興味深かったですね。

ゾトが自分の経験した体験を饒舌に語るというものです。

このエピソードだけでも一つの小説になりそうです。

 

この本のいい点は、ヤン・ポトツキのこの小説を完訳しただけでなく、各巻の巻末にこの作者であるポーランドの大貴族であったポトツキの経歴を載せていることです。

それにこの長編が出版に至るまでにたどった不思議な運命についても詳しい解説を載せています。

この小説がフランスにおいてどのような経緯を経て、出版されたかもこの小説の内容と同様に一つの物語になりそうです。

あと訳注や地図も巻末にあるので、舞台となった18世紀のヨーロッパの歴史も分かります。

 

かなり長いので、読み通すのは、大変ですが、この長編は物語の面白さを再確認させてくれた作品でしたね。