清朝というと少数民族であった満州族が多数派の漢族を征服して成立した王朝というイメージです。
そんな清朝の滅亡について書かれた本を読みました。
清朝滅亡:戦争・動乱・革命の中国近代史一八九四―一九一二 杉山 祐之 (著)
https://amzn.to/3TlKYGW
個人的には、清朝については以前から興味を持っていました。
漢族の1%程度の人口しか持たない少数派の満州族がなぜ中国全土を支配できたのか不思議でした。
日本で言えば、戦国時代にやはり同じように日本列島の全人口の1%程度しかいなかったと思われるアイヌ人が日本全土を征服して、新しい王朝を打ち立てたようなものでしょう。
ただ今回読んだのは、そんな清朝創設期の物語ではなく、清朝滅亡のころについて触れた本です。
最初は、日清戦争から始まります。
清朝滅亡は、日清戦争の敗北が直接のきっかけだったと分析しています。
その後も清朝の中国は日本との関係が密接です。
日本は、ときに敵として、時に近代化の先達として、老いた王朝の行方に大きな影響を与えたとこの本の著者は述べています。
またこの本の特徴は、今までの歴史書では、悪者として一面的に捉えられることの多かった袁世凱や西太后(この本では慈嬉という名前で紹介されています)についても一定の評価をしていることです。
それは2000年以降の中国国内での近代史を今までの共産主義イデオロギーではなく、客観的に記そうという流れを汲んでいます。
そしがや自身もそんな共産主義イデオロギー的な見方をしてきたのか、この二人に対しては、あまりいいイメージを持っていませんでした。
ですが、この本では二人が中国の近代史に果たした役割の大きさを客観的に評価しています。
特に袁世凱が魅力的です。
今までの歴史観だと「孫文たちは、清朝を革命で倒したが、その成果を袁世凱が横取りした」というのが彼に対してのイメージでしょう。
この本を読んでいくとそんなに単純ではないということが分かります。
袁世凱は、漢人で、科挙に失敗し、軍隊に入ってから頭角を現し出すような有能な軍人でした。
日清戦争後、新建陸軍を育て、最強の軍事力を持ったことで中央の政治改革でも中心的な存在になります。
慈嬉死去後は、失脚しますが、武昌蜂起後復活し、清朝滅亡後は中華民国臨時大総統から大総統になります。
1915年には皇帝になりますが、反対勢力が一斉に蜂起したことにより、帝政を廃止し失意のうちに病死するという波乱の人生を歩んでいます。
長編小説の主人公にでもなれそうな人物です。
司馬遼太郎に書いてほしかったです。
人間としての強さも弱さも両面持った人物としてこの本では描かれています。
また慈嬉も魅力的です。
男性優位の中国社会においてこれだけの力を持った彼女はかなりの手腕を持った女性だったことが分かります。
これまでは類書のなかった分野の本だったので、この本を読んで清朝末期の時代の流れがおおむね理解できたような気がしました。
またこの本の著者も指摘していましたが、清朝崩壊後は、中国が市民社会を土壌とする近代国家に生まれ変わる千載一隅のチャンスだったと述べています。
結局中国は、その好機を逃してしまいます。
その後は、皇帝が消えたあとも個人、あるいは一政党による独裁が続いているというのです。
そういう意味では清朝は滅亡しても、いまだに独裁体制は存続しているという主張は説得力がありますね。