そしがやのリタイア日記

リタイアした公務員の日々の生活を書いていきます。学生生活、投資、などなどです。

覇王の家上巻

 

司馬遼太郎徳川家康について書いた「覇王の家」という小説があるのは、知っていましたが、読んできませんでした。

家康が登場する「関が原」や「城塞」は読んでましたが、例えば「関が原」について言えば、石田三成の方がメインで描かれているし、「城塞」も必ずしも家康が主人公とは言えないでしょう。

滅びゆく豊臣家の方に多くのページが割かれています。

 

今回この本を読んだ直接のきっかけは、NHKの「100分de名著」で司馬遼太郎の「覇王の家」が取り上げられていたからです。

まだ2回までしか視聴していませんが、毎回興味深かったです。

特に解説者である作家の安部龍太郎が司馬の歴史観を、当時はやりだった「唯物史観」に対抗する「人間史観」だったと分析しているのが新鮮でした。

今回、番組で司馬のこの著作が取り上げられたのは、大河ドラマで家康が放送されているということと今年が司馬の生誕100年に当たるからでしょう。

 

 

今回、Kindle Unlimitedで上巻のみ無料になったので、まず上巻から読んでみました。
この作品は、1973年に書かれたせいもあってか、初期のころの英雄譚ではなくなっています。

最初は、三河かたぎから解説から始まっています。

週刊朝日に連載されていた「街道をゆく」を思わせます。

三河人の中世的で保守的な気質の分析から始まっていて、なかなか家康が登場しません。

登場してても会話よりも歴史的な説明の方が多いです。

多分、司馬は、家康がそんなに好きでなかったのではないかと思わせます。

 

戦国の三英傑でいえば、司馬の「国盗り物語」では、後編は織田信長明智光秀が主人公ですが、中世の保守性を代表させる光秀との対比で信長の革新性を評価していました。

ですが、司馬は、家康を平凡な人間として描いています。

信長や秀吉の革新性や独創性を家康は持っていません。

先人たちを真似て政権を獲得した人間として見ています。

 

ですが、三英傑の他の二人と異なるのは、部下を大事にしたことです。

信長や秀吉のように部下を疑って、殺してしまうようなことはありません。

部下からすると信頼できる上司だったと言えそうです。

それに今川氏真織田信雄のようなもともとは主君筋に当たる人間をも後で取り立てて、大事にしています。

こういった家康の性格が徳川政権を成立させた理由の一つとも言えそうです。

 

さてこの本に戻ると上巻でかなりページを割いているのが、築山殿と嫡男の信康の武田内通事件です。

この本では、築山殿をかなりの悪妻として見ています。

家康より10歳年上で今川家の支族関口家出身を鼻にかけている気位の高い女性として描いています。

築山殿は、そんなこともあってか嫁の徳姫との仲が悪く、築山殿の武田との内通が徳姫側の侍女に知られてしまいます。

そのことを徳姫は、父親の信長に知らせ、信長の命令により、家康は、築山殿と信康を処断せざるを得なくなります。

多分、このころの通説だったのでしょう。

現在では、処断したのは、家康の意思だったという説が有力のようです。

 

いま大河ドラマの「どうする家康」での築山殿を見ると同じ女性とは思えません。

ただポリコレの視点からするとこの当時の司馬の描いた築山殿では、放送できそうにないのは、間違いさなそうです。

 

上巻の最後は、賤ケ岳の戦で柴田勝家を打ち破った秀吉の許へ茶器の「初花」を贈るという場面で終わっています。

このあたりになると最初の歴史エッセイのようであった、この物語がだんだん小説ぽくなってきたので、下巻を楽しみにできそうです。