公務員時代の嫌なことと言えば、住民からの苦情でした。
窓口職場が長かったので、かなり理不尽なクレームに苦労したことを思い出します。
そのころは、住民は、神様という考え方だったので、こちらに非がなくても、いつも謝ってばかりいました。
それは、かなりストレスでした。
日本では、公務員以外でも多くのサービス業では、同じような状況ではないかと思います。
そんなサービス業についての記事を読みました。
「今まで優しかった人々が、殺気立って、とにかくイライラをぶつけてくる。『次の入荷はいつ?』『いつもないじゃない』『1個くらい取っておいてよ』と電話でも、対面でも何度も何度も聞かれ、その度に『すみません』『申し訳ありません』と頭を下げている。人が鬼に見える。正直ノイローゼ気味だ」――
これは、ドラッグストアの店員の告白です。
コロナ禍でマスクが足らない状況のときのものです。
そのころは、そしがやもいつドラッグストアに行ってもマスクが入荷していなかったので、苦情を言うお客の気持ちもわかりますが、一方では、言われる員の辛さも理解できます。
お客の気持ちとしては、「お客様は、神様です」という信仰にも似た感覚があり、当然の権利を行使しているつもりでしょう。
ですが、これが、反面、長年に渡って、サービス業に働く人たちを苦しめてきたものの正体かもしれません。
緊急時ほど人間の心の闇は表面化するものですが、その後も、保健師さんたちに「電話ぐらい出ろ! つながらないうちに死んだらどうするんだ!」「PCR検査を受けさせろ!」などの不満や誹謗中傷が相次いだり、宅配便のドライバーさんにも「近くによるな!」「話しかけるな!」などの暴言を吐いたりするなど、“カスハラ”は問題になり続けました。
公務員時代、保健所に勤めていた時もあったので、保健所への攻撃は、我が身へのもののような気がしていました。
これが、カスタマーハラスメント、略してカスハラというものですが、この記事によると、やっと、少ししだけ解放されるかもしれません。
ご承知の通り、6月から「職場でのパワーハラスメント防止」が大企業に義務付けられたのに合わせ、国家公務員及び地方公務員のパワハラ対策も本格化。その中に「カスハラ対策」も入るというのです。
これによってカスハラ対策が多少は、前進しそうです。
ですが、長年の課題の解消は、簡単ではないような気もします。
それは、本来は、タダではないはずのサービスを、働く者の自己犠牲の上に成り立っているにもかかわらず、その自己犠牲を当然とする考え方があるからです。
2012年にスカイマークが、「スカイマーク・サービスコンセプト」という冊子を座席のシートポケットに入れ、顧客からのクレームで回収するという事態に至ったときもそうでした。
冊子には、
・荷物の収容はしない
・従来の航空会社の客室乗務員のような丁寧な言葉使いを当社客室乗務員に義務付けていない
(中略)
・客室乗務員は保安要員として搭乗勤務に就いており接客は補助的なもの
・幼児の泣き声等に関する苦情は一切受け付けません
・地上係員の説明と異なる内容をお願いする際は、客室乗務員の指示に従うこと
・機内での苦情は一切受け付けません
・ご理解いただけないお客様には定時運航順守のため退出いただきます
・ご不満のあるお客様は「スカイマークお客様相談センター」あるいは「消費生活センター」等に連絡されますようお願いいたします
この内容を読むと今までの「お客様は神様」信仰の人にとっては、納得できないものでしょう。
当時、スカイマークは、メディアから大バッシングを受けました。
つまり、「スカイマーク・サービスコンセプト」は、「わが社の飛行機に乗っているのは、客室乗務員ではなく、保安員です。ですから、他の航空会社さんとは違うのです」というお客さんへのメッセージであると同時に、「わが社はあなたたちに、乗客を感情的に満足させることを求めていない。あなたたちは、安全に乗客を届ける仕事に専念してください」という社員へのメッセージです。
スカイマークの客室乗務員は、飛行機に乗る乗客の安全を守る保安員というコンセプトです。
このコンセプトによって、低価格を実現できたといいます。
お客さまを「大切」に思って丁重に接することと、感情を売り払ってまでお客さまを満足させることは、決して同じではありません。
無論、お客様を大切にするという気持ちは、忘れていないともこの記事では述べています。
感情を切り売りするような仕事はしないということです。
サービスを受けるものとしてみれば、日本のサービス業のサービスは、ほかの国に比べても素晴らしいのです。
ですが、今まで自己犠牲を強いられてきた、サービスを提供する、働く者の視点がこのように重要視されるようになったのは、いい傾向ですね。
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