以前読んだ本だったが、病原菌のことも触れられているということもあり、また読んでみました。
著者は、カリフォルニア大学の教授で、ピュリッツァー賞、国際コスモス賞、朝日新聞「ゼロ年代の50冊」第1位を受賞した名著です。
無論、再読なので、最初読んだ時のような目新しさは、なかったのですが、最初の時には、気が付かなかったこともありました。
この本は、アメリカのインカ帝国やアステカ帝国が少数のスペイン人によってあっさりと征服されてしまったのは、銃や、鉄によって作られた剣やそれにスペイン人が持ち込んだ病原菌などが大きいというものです。
特に病原菌に免疫のなかった当時のアメリカ先住民は、銃や剣で殺された以上に感染症によって亡くなったといいます。
なぜ、その逆は、起きなかったかという疑問から議論を進めています。
それは、スペイン人が人種的に優秀だったというものではなく、スペイン人の住んでいたユーラシア大陸が東西に長い大陸だったという環境的な要因によるというものです。
アメリカ大陸は、南北に長く、もともと農業に適した野生植物が少なく、そんな数少ない農耕に適した植物も、緯度が同じ東西に長いユーラシア大陸に比べて、広がりにくかったというものです。
ユーラシア大陸での農業の発達が、銃や鉄を生み出す社会をもたらしたのです。
病原菌について言えば、感染症は、ほとんどが家畜から広まるものですが、アメリカ大陸には、家畜に適した動物が少なく、そういう点でアメリカ大陸の住民には、免疫がなかったというのです。
例えば結核や天然痘は、もともとは、牛の持っていた病原菌です。
最初この本を読んだ時には、このアイデアには、驚かされましたが、今回は、同じユーラシア大陸の中で、なぜ差が生じたのかという疑問が生じました。
ユーラシア大陸の西にあるヨーロッパがなぜ、東にあるアジアの国々を植民地にできたのか。
この本のエピローグでその点について、中国の例を挙げて、触れています。
15世紀の明朝の鄭和の南海遠征が中止になったことが、中国がほかの国々を植民地化する機会を失った理由だと分析しています。
一方ヨーロッパでは、この時期、コロンブスが新大陸への航海へ乗り出しています。
それがその後のヨーロッパと中国の運命を分けたものだとしています。
なぜそういうことになったかについては、中国が統一王朝で一人の皇帝によって支配されていたので、船団を送りださないという決定が絶対的だったというものです。
一方、ヨーロッパの場合は、当時からいくつかの国に分かれていて、コロンブスもいくつかの国の君主に断られ、やっと4つ目のスペインの君主によって、援助を受け、航海に乗り出すことができたというエピソードが紹介されています。
つまり統一王朝だったのか、分裂していたかの差です。
それは、中国の場合、ヨーロッパの比べ、地理的に分断されていなかったことが、統一されやすかったというものです。
この説明は、アメリカ大陸がスペインに征服された理由に比べるとちょっと弱い気がしますね。
明朝は、統一王朝でしたが、もっと強い力を発揮しても良さそうです。
なぜそうならなかったのかの説得力ある説明は、この本ではできていないと感じました。
ローマ帝国でもモンゴルでも統一されていたからこそ、あれだけの世界支配をできたのです。
とは言え、こういう環境史観とでもいうべきアイデアでヨーロッパの国々の15世紀以降の勃興を説明できたというのは、新鮮でした。