村上春樹の小説は、ほとんど読んでいますが、登場人物が関西弁を話すものは、少ないです。
ほとんどないと言ってもいいくらいかもしれません。
デビュー作の『風の歌を聴け』でも関西の芦屋と思われる故郷に帰っても、主人公が友人と話す言葉は、標準語でした。
ですが、最近読んだ短編集の中に東京の田園調布出身にもかかわらず、関西弁をしゃべる登場人物の登場する「イエスタデイ」という短編を見つけました。
2014年4月に発売された『女のいない男たち』という短編集の中の一作です。
この中でその人物は、ビートルズの有名な「イエスタデイ」の替え歌を関西弁で歌っています。
そしがやの読んだ文庫本では、以下のようになっています。
「昨日は/あしたのおとといで/おとといのあしたや」
最初に発表された『文学界』では、全体では19行載っていましたが、著作権者の代理人からの助言によって、かなり削除したと村上は、述べています。
参考にネットで見つけたオリジナルの替え歌を載せておきましょう。
昨日は
あしたのおとといで
おとといのあしたや
それはまあ
しゃあないよなあ昨日は
あさってのさきおとといで
さきおとといのあさってや
それはまあ
しゃあないよなああの子はどこかに
消えてしもた
さきおとといのあさってには
ちゃんとおったのにな昨日は
しあさっての四日前で
四日前のしあさってや
それはまあ
しゃあないよなあ
さて、この中では、この人物は、阪神タイガーズ・ファンだったので、血のにじむ思いをして、関西弁を身に着けたと言います。
外国語を学ぶような努力をしたとのこと。
ほかに登場人物は、芦屋出身の村上自身を思わせる男性と田園調布出身の人物の恋人の女性の3人です。
この3人のちょっとした恋愛談がこの物語のストーリーの中心です。
村上を思わせる人物は、芦屋出身にもかかわらず、標準語しか話しません。
今までの村上の登場人物と同じです。
東京出身の女性ももちろん標準語です。
時代は、村上が20歳代だった1960年代後半のようです。
そしがやは、いままでにない関西弁を話す登場人物に興味を持ちました。
村上の小説で関西弁を話す人物は、知る限りでは、長編の『アフターダーク』に登場する神戸出身の震災の罹災者の女性と短編集『神の子たちはみな踊る』の一作「アイロンのある風景」に登場するやはり震災の罹災者の男性だけです。
いずれも神戸出身のもともと関西弁の話者です。
ですから、この「イエスタデイ」の東京出身者にも関わらず、関西弁を話すという話者がユニークです。
芦屋出身にも関わず、標準語しか話さない登場人物とは、まるで逆の設定の人物です。
こんな人物を書くようになったということは、村上春樹自身にも何か変化があったのでしょうか。
それにこんなコミカルな替え歌を創作するというのも村上にしては、珍しくて興味深いです。
その辺の心境の変化についてもエッセイ等で触れてほしいですね。
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